大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)592号 判決
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〔判決理由〕一、請求原因一、および三の事実は、いずれも当事者間に争いがなく、原告が昭和四一年四月七日本件家屋を新築して取得し、爾後これを原告の設置している、自動車整備士養成のための講習を行なう二種養成施設として、使用していることも、また当事者間に争いがない。
原告は、本件家屋は地方税法七三条の四第一項三号の旧規定に該当するから、本件家屋の取得に対して不動産取得税を課することはできない旨主張し、これに対して、被告は、本件家屋の取得については、地方税法の右規定の適用がない旨主張するので、以下において、この点について検討することとする。
二、地方税法は、その七三条の四において、不動産の用途による不動産取得税の非課税の場合につき、規定を置いているのであるが、本件家屋の取得に対し、その適用の有無が問題となる同条第一項三号の旧規定は、「民法三四条の法人で職業訓練法(昭和三三年法律第一三三号)二条二項に規定する職業訓練を行なうことを目的とするものがその職業訓練施設において直接職業訓練の用に供する不動産」というように規定している。したがつて、本件家屋の取得に対し、地方税法七三条の四第一項三号の旧規定が適用されるためには、まず、原告が、民法三四条の法人であること、および旧職業訓練法二条二項に規定されている職業訓練を行なうことを目的とする法人であること、の二つの要件を充たした上で更に、本件家屋が原告の行なう職業訓練施設において直接職業訓練の用に供されている不動産であることの要件をも充たしていることが必要となる。ところで、原告が民法三四条の法人であることは、前示のとおり、当事者間に争いがないので、つぎに、原告が果して旧職業訓練法二条二項に規定されている職業訓練を行なうことを目的とする法人であるかどうかについて、検討を進めなければならない。
旧職業訓練法二条二項は、「この法律で「職業訓練」とは、労働者に対して職業に必要な技能を習得させ、又は向上させるために行う訓練をいう。」と規定している。地方税法七三条の四第一項三号の旧規定が、単に「職業訓練」を行なうことを目的とするもの、とは規定せず、また「労働者に対して職業に必要な技能を習得させ、又は向上させるために行う訓練」を行なうことを目的とするもの、とも規定せずに、「旧職業訓練法二条二項に規定する職業訓練を行なうことを目的とするもの」と規定しているところから判断すると、旧職業訓練法二条二項の規定内容、趣旨がその全体において地方税法の右旧規定の定める要件内容を構成しているものと考えなければならない。そうすると、同項の「この法律で「職業練訓」とは」という点に重点があることになり、それが意味するところは、この法律でいう職業訓練、即ち、旧職業訓練法が規制の対象としている職業訓練、つまり、公共職業訓練、および事業内職業訓練のことであるということになる。それ故、地方税法七三条の四第一項三号の旧規定にいう「旧職業訓練法二条二項に規定する職業訓練」は、職業訓練として観念されるものすべてを含むのではなくて、旧職業訓練法が規制の対象としている公共職業訓練および事業内職業訓練のことを意味しているという結論が導き出されるのは、極めて自然な解釈であるといわねばならない。
右に説示したとおり、地方税法七三条の四第一項三号の旧規定にいう、「旧職業訓練法二条二項に規定する職業訓練」は、旧職業訓練法が規制の対象としている公共職業訓練および事業内職業訓練のことを意味しているということが、文理上正当に導き出される結論であるが、この外に、右旧規定が設けられるに至つた立法趣旨からも、右の結論が支持されるものといわなければならない。即ち、右旧規定は、昭和四一年法律第四〇号をもつてはじめて設けられたのであるが、その改正の理由は、成立に争いのない乙第二号証によれば、右旧規定に規定されている法人の行なう職業訓練の公共性にかんがみ、また学校等が非課税とされていることとの均衡からとられた措置であるというところにあつたと認められる(右認定に反する証拠はない。)ので、この改正の理由からも、右旧規定にいう職業訓練は、職業訓練として観念されるものすべてを含むのではなくて、旧職業訓練法が規制の対象としている公共職業訓練および事業内職業訓練のことを意味していると解されるのである。
そして、旧職業訓練法を通観すれば、そこにおいて規定されている公共職業訓練および事業内職業訓練の種類は、被告がその主張二(三)(1)において主張しているとおりであることが認められる。即ち、旧職業訓練法が規定している公共職業訓練は、(1)一般職業訓練所において行なわれる職業訓練(五条)、(2)総合職業訓練所において行なわれる職業訓練(六条)、(3)職業訓練大学校において行なわれる職業訓練(七条)、(4)身体障害者職業訓練所において行なわれる職業訓練(八条)、(5)雇用促進事業団、一五条一項の規定により都道府県知事の認定を受けた事業主等が九条の規定により都道府県知事の委託を受けて行なう一般職業訓練(九条)、および(6)市町村、民法三四条の規定により設立された法人等が労働大臣の認可を受けて行なう職業訓練(みなし公共職業訓練、一二条)の六つに区分され、また事業内職業訓練は、(1)事業主がその雇用労働者に対して行なう職業訓練(二条四項)、および(2)共同職業訓練団体が都道府県知事の認定を受けて行なう事業内職業訓練(みなし事業内職業訓練、一六条)の二つに区分され、更に事業内職業訓練の(1)は、(ア)都道府県知事の認定のあるもの(一五条)と、(イ)右知事の認定のないものの二つに区分されているのである。それ故、原告がその反対主張二(二)(2)において、旧職業訓練法が適用になる職業訓練として、被告が主張するものの外に、更に四種類の職業訓練を付加すべきであると主張するのは、旧職業訓練法において全く根拠を見出しえないところであるといわなければならない。即ち、原告が旧職業訓練法が適用になる職業訓練として付加すべきであると主張するものは、事業内職業訓練の一区分として付加されるべき、共同職業訓練団体が行なう事業内職業訓練で、一六条の規定による都道府県知事の認定を受けていないもの、および、公共職業訓練でも事業内職業訓練でもない職業訓練として付加されるべき、(1)公共団体または公益団体等が行なう職業訓練で一二条一項の認可を受けていないもの、(2)認定職業訓練を行なう事業主(一六条三項により事業主とみなされる共同職業訓練団体を含む。)が他の事業主からの委託を受けて他の事業主の雇用労働者に対して行なう職業訓練、ならびに(3)右以外の者が行なう職業訓練、という四種類の職業訓練であるが、これらの職業訓練については、旧職業訓練法において、その規制の対象とされていないのである。
そして更に、原告が行なう講習が、先に判示した、旧職業訓練法上の公共職業訓練および事業内職業訓練のいずれにも該当せず、強いて当てはめるとしても、原告が旧職業訓練法の適用になる職業訓練として付加されるべきであると主張するところの、公共職業訓練でも事業内職業訓練でもない、公共団体または公益団体等が行なう職業訓練で一二条一項の認可を受けていないもの、にしか該当しないことは、原告において自認するところである。したがつて、原告は、公共職業訓練また事業内職業訓練を行なうことを目的とする法人ではないといわざるを得ない。
以上の判示に従えば、原告の反対主張二(一)(1)、二(二)(1)および(2)の各主張がいずれも理由のないことは、自ずから明らかであろう。
三、原告の反対主張二(一)(2)について
原告は、一種養成と二種養成とは単に同種の技術に関し、程度の異なる分野を取り扱うにすぎず、職業訓練としては両者は同質のものであるというべきところ、職業訓練法上の職業訓練施設が運輸大臣によつて一種養成施設としての指定を受けているから、原告の行なう講習もその本質上必然的に、地方税法七三条の四第一項三号の旧規定にいう「職業訓練」に該当する旨主張する。
確かに、道路運送車両法五五条、自動車整備士技能検定規則(昭和二六年八月一〇日運輸省令第七一号)六条、六条の二、<証拠>を総合すれば、運輸大臣は、自動車の整備技術の向上を図るため、自動車整備士の技能検定を行なうものとされているところ、自動車整備士の養成施設としては、一種養成施設と二種養成施設とを区別して指定するものとされているが、一種養成施設においても、また二種養成施設においても、その所定の課程については、当該施設が養成しようとする自動車整備士の種類によつて異なるのみであり、またその課程を終了したもののうちの一定のものについては、ある種の技能検定についての実技試験が免除されている点では、両者は共通しており、両者が異なつているのは、一種養成施設が主として自動車の整備作業に関する実務の経験を有しない者を対象とする養成施設であるのに対して、二種養成施設が主として自動車の整備作業に関する実務の経験を有する者を対象とする養成施設であるという点であること、一種養成施設には職業訓練上法の職業訓練施設や学校が指定されているが、二種養成施設として指定を受けているのは、自動車整備振興会が設置する技術講習所に限られていることを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
しかしながら、地方税法七三条の四第一項三号の旧規定の適用を受けるためには、既に二において判示したとおり、原告が行なう講習が、旧職業訓練法が規制の対象としている公共職業訓練または事業内職業訓練のいずれかに該当することが必要であつて、原告が行なう講習と、職業訓練法上の職業訓練施設が行なつている職業訓練との類似性が右旧規定適用の要件をなすものと解すべき理由はない。殊に、地方税法の右規定は、一定の租税政策に基づいて制定された租税優遇措置に関する規定であつて、その規定自体一般の住民との間において租税負担の公平を破る規定であるから、それの適用に当たつては、厳格な解釈をすべきであり、いやしくも拡張にわたるような解釈は厳に戒めなければならない。
したがつて、原告の右主張は失当である。
四、原告の反対主張二(二)(3)について
原告は、原告の行なう講習は、共同事業内職業訓練と公共的職業訓練という二つの性格を共有しており、あたかも認定事業内職業訓練を行なう共同職業訓練団体が都道府県知事の委託を受けて公共職業訓練を行なう場合に類似し、ただ右の認定と委託を欠いているにすぎないから、地方税法七三条の四第一項三号の旧規定にいう「職業訓練」に該当する旨主張する。
しかしながら、三において判示したとおり、原告の行なう講習がいかに共同職業訓練団体の行なう職業訓練に類似していようとも、原告自身が、旧職業訓練法が規制の対象としている認定事業内職業訓練を行なう共同職業訓練団体そのものに該当しない限り、地方税法の右規定の適用を認めることはできないのである。
したがつて、原告の右主張も失当である。
五、原告の反対主張二(二)(4)について
原告は、その二種養成施設の養成課程の実施に際し、総合職業訓練所から常時継続的に講師としてその職員たる職業訓練指導員の派遣を受けていたから、原告の右養成課程は旧職業訓練法上の職業訓練に該当する旨主張する。
なるほど、<証拠>によれば、原告はその養成課程の実施に際し、大阪総合職業訓練所から常時継続的に講師として職業訓練指導員の派遣を受けていたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
しかしながら、総合職業訓練所より講師として職業訓練指導員の派遣を受けたことによつて、その職業訓練指導員の行なう職業訓練課程が、旧職業訓練法が規制の対象としている公共職業訓練または事業内職業訓練に変容せしめられるというようなことを定めた規定は、同法には存在しない。したがつて、右講師の派遣が旧職業訓練法のどの条項に基づいてなされたかを論ずるまでもなく、原告の右主張は失当である。
六、原告の反対主張二(三)(1)について
原告は、地方税法七三条の四第一項三号の旧規定の適用を受けるためには、労働大臣の許可を受けて設立された法人である必要はないし、また右規定の中で「職業訓練の用に供する不動産」という場合の職業訓練については、旧職業訓練法一二条一項にいう労働大臣の認可を既に受けていることまでも要するものではない旨主張する。
地方税法の右規定は、「旧職業訓練法二条二項に規定する職業訓練を行なうことを目的とする」法人というように規定しているけれども、法人は複数の目的を有することを妨げられないから、主たる目的につきその主務官庁の許可を受けて設立されたが、主たる目的たる事業を遂行する上で、これと密接な関係にある従たる目的というべき職業訓練につき、その主務官庁である労働大臣の許可を受けていない場合も起こりうると解され、この場合であつても、地方税法の右規定に規定されている法人には該当するものと解するのが相当である。それ故、この意味においては、地方税法の右規定の適用を受ける法人が必ずしも労働大臣の許可を受けて設立されたものである必要はない。しかし、原告が主張するように、当該法人の行なう職業訓練が、旧職業訓練法一二条第一項にいうみなし公共職業訓練に該当することを理由に、地方税法の右規定の適用を受けるべきであるとしながら、不動産取得税の賦課決定処分がなされるときまでに、労働大臣の認可を受けている必要がないと解するのは、正当でない。何故なら、労働大臣の認可があつてはじめて当該職業訓練が公共職業訓練とみなされるのであり、地方税法の右規定は、旧職業訓練法が規制の対象としている公共職業訓練または事業内職業訓練を行なうことを目的とする法人に対してのみ、適用されるからである。
したがつて、結局、原告の右主張は失当である。
七、原告の反対主張二(三)(2)について
原告は、地方税法七三条の四第一項三号の旧規定が立法された時点においては、民法法人の行なう一般的職業訓練に供される不動産に対し、租税政策上非課税とする必要性が存した旨主張する。
しかしながら、原告が指摘する、中小企業基本法三条二号、五条、雇用対策法三条二号、一一条、旧職業訓練法一条の諸規定から、直ちに原告が主張するような非課税の必要性が導き出されるものではないし、その外に右のような非課税の必要性は全く立証されていない。原告としては、旧職業訓練法一六条一項により都道府県知事の認定を受けることによつて、地方税法の右規定の適用を受ける方法があつたはずである。しかし、原告が自認するように、原告の行なう講習が右の認定を受けるために必要な基準に適合していないというのであれば、本件家屋の取得に対し非課税の扱いがなされなくても、やむを得ないところである。
したがつて、原告の右主張も失当である。
八、原告の反対主張二(四)について
原告は、仮に地方税法七三条の四第一項三号の旧規定の立法趣旨が、非課税の扱いを受けるのは旧職業訓練法の規制の下に行なわれる職業訓練を行なうものに限られるというところにあつたにもかかわらず、単に「旧職業訓練法二条二項に規定する職業訓練を行なう」ものというように規定したとすれば、それは立法の過誤というべきである旨主張する。
しかしながら、二において判示したとおり、地方税法の右規定にいう「旧職業訓練法二条二項に規定する職業訓練」というのが、旧職業訓練法が規制の対象としている職業訓練を意味するということは、その文理上からも導き出される解釈であるので、ここには原告が指摘するような立法の過誤は存しないといわねばならない。
したがつて、原告の右主張は失当である。
九、原告の反対主張二(五)について
原告は、本件家屋の取得を非課税の対象から除外するとすれば、租税負担の公平の原則に反する旨主張する。
ところで、原告が指摘する、社団法人大阪府職業訓練協会および社団法人人間能力開発協会が不動産を取得した場合に、過去において非課税の扱いがなされたとか、あるいは将来非課税の扱いがなされるであろうというようなことについては、何ら立証がなされていないので、この点は明確でないが、仮にこのようなことが認められるとしても、前示のとおり、原告が行なう講習は、旧職業訓練法が規制の対象としている公共職業訓練または事業内職業訓練のいずれにも該当しないのであり、また地方税法七三条の四第一項三号の旧規定を適用するに当たつては、厳格な解釈をすべきであつて、拡張解釈は許されないものというべきであるから、本件家屋の取得に対し非課税の扱いをしないことをもつて、租税負担公平の原則に反すると論議することはできない。
したがつて、原告の右主張もまた失当である。
一〇、以上の次第で、被告が原告の本件家屋の取得に対し、地方税法七三条の四第一項三号の旧規定の適用を認めなかつたのは、正当であるとして、これを是認すべきところ、地方税法の右規定の適用が否定された場合は、課税標準額が金一四、二九二、四〇〇円となることについては、原告において明らかに争つていないと認めるべきであるから、これを自白したものとみなすべく、そうすると、原告の本件家屋の取得を原因とし、地方税法七三条の一五第一項に従い、右課税標準額に一〇〇分の三を乗じ、更に同法二〇条の四の二第三項本文により、一〇円未満の端数を切り捨てた上、税額を金四二八、七七〇円と算出してなされた本件不動産取得税の賦課決定処分には、何ら違法な点がない。
(日野達蔵 喜多村治雄 松井賢徳)